旅行や帰省、イベントでスマートフォンを長く使う夏は、モバイルバッテリーが頼りになります。一方、気温が高い季節はリチウムイオン電池への負荷が大きくなり、扱い方によっては発熱や発火につながることがあります。
消費者庁は2026年5月、炎天下に置かれたバッグの中のモバイルバッテリーが電車内で発火した事例などを紹介し、改めて注意を呼びかけました。そこで、外出前・持ち歩き中・充電中・手放すときの4場面に分けて、安全のポイントをやさしく整理します。
なぜ夏はモバイルバッテリーに注意が必要?
リチウムイオン電池を高温の場所に置くと、内部の化学反応が進みやすくなり、性能低下や発火事故のリスクが高まります。特に車内は短時間でも高温になりやすく、ダッシュボードだけでなく、座席やトランクへの置き忘れも避ける必要があります。
NITEが2025年に公表した集計では、2020~2024年の5年間に通知されたリチウムイオン電池搭載製品の事故は1,860件。そのうち約85%に当たる1,587件が火災事故に発展し、事故は6~8月にピークを迎える傾向が示されました。モバイルバッテリーだけでなく、スマートフォン、携帯用扇風機、ワイヤレスイヤホンなどにも同じ種類の電池が使われています。
30秒で確認:夏のお出かけ前チェック
- 車内に残さない:短時間でも、端末とバッテリーを一緒に持って出る
- 外観を確認:膨らみ、変形、ひび、焦げ跡、端子の破損がないか見る
- 製品情報を確認:PSEマーク、メーカー名、型番を確認し、リコール情報も調べる
- 圧迫を避ける:重い荷物の下や、座ってしまうポケットには入れない
- 水濡れを防ぐ:雨、水遊び、結露を想定し、濡れたまま使わない
- 充電環境を整える:布や紙から離れ、熱がこもらない場所で充電する
場面別:安全な使い方と避けたい行動
| 場面 | 避けたいこと | 安全のポイント |
|---|---|---|
| 車・屋外 | 車内放置、直射日光下での充電 | 日陰へ移し、車を離れるときは必ず持ち出す |
| バッグ | 鍵や硬貨と一緒、荷物で強く圧迫 | 端子を保護し、衝撃を受けにくい場所へ入れる |
| 充電 | 布団・ソファの上、就寝中の充電 | 周囲に燃えやすい物を置かず、様子を見られる時間に行う |
| 雨・水辺 | 濡れた製品をそのまま通電 | 使用を止め、メーカーや販売店へ相談する |
| 処分 | 可燃ごみなどへ混ぜて捨てる | メーカー、販売店、自治体の回収区分を確認する |
車内では「見えない場所」も高温になる
サンシェードを使ったり日陰に駐車したりしても、夏の車内は高温になります。「直射日光が当たらないトランクなら大丈夫」とは限りません。NITEには、気温30℃の日に車内へ置いたモバイルバッテリーが出火し、周囲の座席まで焼けた事例もあります。
コンビニへの立ち寄りなど短い予定でも、スマートフォンとモバイルバッテリーは持って出る習慣にすると、置き忘れを防ぎやすくなります。
ポーチは万能ではない。熱・圧力・端子に注意
持ち歩くときは、強い衝撃や圧力を避けることが基本です。専用ポーチを使う場合も、熱がこもる場所や重い荷物の下には置かないでください。端子に金属が触れないよう、鍵や硬貨とは分けて収納しましょう。
落とした後に外見上の変化がなくても、内部が傷ついている可能性があります。以前より熱くなる、充電できないなどの変化があれば、無理に使い続けないことが大切です。
充電は硬く平らな場所で、起きている時間に
布団、ソファ、カーペットの上では熱がこもりやすく、周囲の布へ燃え移る危険もあります。充電は燃えやすい物から離れた、硬く平らで風通しのよい場所で行いましょう。就寝中は異常に気づきにくいため、消費者庁はできるだけ避けるよう案内しています。
製品指定と異なる充電器やケーブルは使わず、コネクタにぐらつきや破損がないかも確認します。満充電後も長時間つなぎっぱなしにする使い方は避けましょう。

このサインがあったら使用を中止
| 異常のサイン | すぐにすること |
|---|---|
| 触れ続けられないほど熱い | 充電・使用を止め、可燃物から離れて安全を確保する |
| 膨らみ・変形がある | 押したり穴を開けたりせず、メーカーや販売店へ相談する |
| 焦げた臭い、煙、異音 | 近づかず避難を優先し、119番通報する |
| 落下・水濡れの後に変化がある | 再充電せず、取扱窓口へ相談する |
発火した場合は、まず自分と周囲の人の安全を確保して119番通報してください。NITEは、対応できる安全な状況であれば大量の水で消火し、可能な限り水没状態を保つよう案内しています。ただし、煙や炎が大きい、逃げ道を確保できないといった場合は、消火を試みず離れて消防の指示に従いましょう。
発火しにくい電池を選ぶ方法もある
一般的なモバイルバッテリーとは異なる材料や構造を採用し、熱暴走や発火のリスクを抑えた製品も市販されています。なかでもナトリウムイオン電池は、リチウムを使わない選択肢です。リン酸鉄と半固体も候補になりますが、こちらは名前や構造が違ってもリチウムイオン電池の仲間です。
| 電池方式 | 特徴 | 選ぶ前に知りたい点 |
|---|---|---|
| ナトリウムイオン | リチウムを使わず、一般的なリチウムイオン電池より熱暴走が起きにくい | 製品の選択肢がまだ少なく、同程度の容量では大きく重くなりやすい |
| リン酸鉄リチウムイオン | 熱安定性が高く、長寿命の製品がある | リチウムイオン電池の一種。軽さを優先した製品より重い場合がある |
| 半固体リチウムイオン | 電解液をゲル化し、可燃性電解液の使用量や液漏れリスクを低減 | リチウムイオン電池の一種。「半固体」だけで安全性を決めず、製品全体の設計を確認する |
本当に「リチウムイオン以外」ならナトリウムイオン
2025年には、ナトリウムイオン電池を採用した9,000mAhのモバイルバッテリーが国内で製品化されました。メーカー公表値では約5,000回の充電サイクル、放電時はマイナス35℃から50℃まで対応し、一般的なリチウムイオン電池より熱暴走しにくいとされています。一方、製品重量は約350gです。容量だけでなく、持ち歩く重さ、出力、ポート数も含めて選びましょう。
ナトリウムイオン電池は、リチウムイオン蓄電池を対象とする現在のPSE規制の対象外です。そのため、PSEマークがないことだけで不適合とは判断できません。メーカーの連絡先、温度監視、過充電・過放電・短絡保護などの安全機能、保証や回収方法を確認することが大切です。
リン酸鉄と半固体は「より安全性を重視したリチウム系」
リン酸鉄リチウムイオン電池は熱暴走が起きにくく、長寿命が特長です。市販例では12,000mAh・約310g・約1,000サイクルの製品があります。半固体リチウムイオン電池は、電解液をゲル化して可燃性有機電解液の使用量を減らした方式で、市販例では10,000mAh・約220g・約2,000サイクルです。安全性と携帯性のバランスを取りたい場合の候補になります。
買うときは電池方式だけでなく安全設計も確認
リチウムイオン系のモバイルバッテリーを購入するときは、連絡先が確認できるメーカー・販売店を選び、本体表示のPSEマーク、事業者名、定格電圧・容量を確認します。PSEマークは事故が絶対に起きないことを保証する印ではありませんが、対象製品では国内販売に必要な技術基準への適合を確認する重要な手がかりです。ナトリウムイオン製品ではPSEマークの有無だけで判断せず、保護機能やメーカーの試験・保証体制も確認します。
購入後も型番を控え、消費者庁のリコール情報サイトやNITEのSAFE-Liteで最新情報を確認しましょう。対象製品だった場合は直ちに使用を中止し、メーカーの案内に従います。
使わなくなったら「家庭ごみに混ぜない」
モバイルバッテリーがごみ収集車や処理施設で押しつぶされ、火災につながる事故が増えています。可燃ごみ、不燃ごみ、資源ごみへ自己判断で混ぜず、まず製品メーカー、販売店、住んでいる自治体の回収方法を確認してください。

2026年4月からは、モバイルバッテリーもメーカーなどによる自主回収・リサイクルの対象製品になりました。JBRCの協力店では会員企業の対象製品を回収していますが、膨張・破損した電池や対象外メーカー品は受け取れない場合があります。持ち込む前に回収先へ問い合わせると安心です。
まとめ:夏は「置かない・傷めない・見逃さない」
買い替えるときは、リチウムを使わず熱暴走しにくいナトリウムイオン、熱安定性と寿命を重視したリン酸鉄、携帯性とのバランスを取りやすい半固体も比較候補になります。ただし、電池方式を問わず、信頼できるメーカー、安全機能、保証、回収方法まで確認してください。
夏のモバイルバッテリー対策は、炎天下の車内へ置かない、落下や圧迫、水濡れを避ける、充電中の様子を見ることが基本です。熱、膨らみ、変形、異臭、煙など、いつもと違うサインを見逃さず、異常があれば使用を止めましょう。
出発前に本体を30秒確認し、車を降りるときはスマートフォンと一緒に持ち出す。この小さな習慣で、夏のお出かけをより安全に楽しめます。


