コーヒーカップを置くテーブルの向こうに、130年前の「人を海の外から迎える部屋」が残っている。横浜市金沢区の海の公園で、国の登録有形文化財「旧長濱検疫所一号停留所」が2026年8月10日に開館します。建物内には歴史を伝えるスペースと、スターバックス コーヒー 横浜海の公園店が入ります。
新しいカフェを目当てに出かけてもいい。ただ、壁や窓を見る時間を少し足すと、ここが「古い洋館を使った店」以上の場所に見えてきます。完成、震災、復旧、移設。建物がたどった時間を、訪問前にほどいてみましょう。
コーヒーカップの下に、1895年がある
一号停留所が完成したのは1895(明治28)年です。旧長濱検疫所は、日本で最初の検疫施設だった長浦消毒所を引き継ぐ施設。横浜市の資料では、一号停留所は感染症の疑いがある上級の船客や船員などが、一定期間滞在する場所だったと説明されています。
意外なのは、医療や衛生のための建物でありながら、「滞在する人をどう迎えるか」にも力が注がれていたことです。特徴的な装飾の内装材が使われ、食事には一流の洋食が出されたといいます。富士屋ホテルや日光金谷ホテルと並ぶ、日本の洋風ホテルの初期の姿を伝える建物としても評価されました。
だから現地では、看板だけを読んで終えるより、室内の装飾、窓辺、部屋のつながりに目を向けたいところです。現在のカフェという用途と、かつての「一定期間を過ごす場所」が、静かにつながります。
建物は一度倒れ、もう一度海辺へ動いた
この建物の130年は、六つの節目にすると見通しやすくなります。
- 1895年:一号停留所が完成
- 1923年:関東大震災で倒壊
- 1924年:原形に近い姿へ復旧
- 2018年:国の登録有形文化財になる
- 2025年3月:金沢区長浜から海の公園へ移設復元
- 2026年8月10日:歴史を伝えるスペースとカフェを備えて開館

「古い建物が残った」という一文では見えにくいのですが、同じ場所に置かれ続けたわけではありません。震災の翌年に直され、横浜検疫所の移転に伴って、今度は建物そのものが海の公園へ移りました。現地で見る姿には、明治の設計だけでなく、直した人と運んだ人の判断も重なっています。
保存するだけでは、扉は開かない
横浜市は2024年、建物の民間活用について事業者との対話を行いました。検討項目には、文化財としての価値を守りながら広く伝えること、飲食店としての利用、歴史や文化を発信する場所づくり、地域との関わりなどが含まれていました。その後、2026年1月にスターバックス コーヒー ジャパンが活用候補者に決まり、8月の開館へ進みました。
今回の仕組みの面白さは、歴史展示と日常の休憩が同じ建物にあることです。展示を見るためだけに構えなくても、海辺を歩いてコーヒーを飲む途中で建物の由来に触れられる。文化財を「遠くから眺めるもの」から「普段の時間を過ごしながら知る場所」へ変える試みと読めます。
ただし、記事執筆時点で横浜市が公表しているのは施設の開館時間です。カフェの営業時間、座席の利用条件、混雑時の案内は同じとは限りません。店舗利用が目的なら、出発前に店舗の公式情報も別に確認してください。
8月10日に見る順番を決める
建物の所在地は横浜市金沢区海の公園10。施設の開館時間は、5月から10月が8時から21時、11月から4月が8時から19時です。8月は21時までの案内ですが、初日や天候による変更、カフェの営業時間まではこの数字で判断しないようにします。

鉄道ではシーサイドラインの「海の公園南口」「海の公園柴口」「八景島」の3駅が案内されています。車は横浜横須賀道路「並木IC」、首都高速道路湾岸線「幸浦」出口から、それぞれ約2.5kmです。どの駅を使うかは、建物だけを見るのか、砂浜や八景島方面も歩くのかで変わります。公式の案内図を開き、同行者の歩ける距離と帰りの駅を先に決めると迷いにくくなります。
海の公園は1988年開園で、横浜市内で唯一の海水浴場を持つ都市公園です。砂浜は約1km。建物を最初に見るなら、その後の海辺の時間を長く取れます。夕方に訪れるなら、歴史スペースを先に見て、施設の閉館時刻を外さない順番が安心です。
出発前に残す三つの確認
訪問日が決まったら、横浜市の開館案内で施設時間と変更の有無を確認します。次に、店舗公式ページでカフェの営業時間と利用案内を確認。最後に、海の公園の地図で使う駅か駐車場を決めます。開館直後の混雑は一次資料から判断できないため、空いている時間を断定せず、時間に余裕を持たせるのが現実的です。
一杯の休憩に、1895年から続く建物の時間が重なる。海だけでも、カフェだけでもない横浜の寄り道が、8月10日から一つ増えます。
公式情報


